見えない糸
掴んだ糸
自宅に着くと、紗織はそのまま階段を上って部屋に入っていった。
直次は一人、リビングのソファーに座り、タバコを取り出した。
【何か私のこと、わかった?】
今日、小谷に会うとは話していない。
それなのに、なぜ?
タバコから立ち上る煙を見つめながら考えていた。
冷蔵庫から缶ビールを出し、またソファーに座ると、紗織が部屋から戻ってきた。
「紗織」
直次が話しかけても返事がない。
「何か、怒ってるのか?」
「...別に...」
紗織も冷蔵庫から缶ビールを出すと、その場で飲み出した。
明らかに変だ。
自分がいない間に、何かあったんだ。
こうなったら、紗織から言い出すまで、こっちから話しかけない方がいいな...
直次はテレビをみながら、チラチラ紗織を見ていた。
大好きなお笑い番組も、今の直次は笑えなかった。
タバコを吸い終わっても、またすぐに火を点ける。
重苦しい空気の中、気が付くと灰皿には、吸殻が山のようになっていた。
「もうタバコ無くなったのか」
小さく呟いた後、部屋に取りに行こうと立ち上がった。
「あのさ...私の過去...わかった...?」
直次の視線に合わせないまま、紗織がきいた。
「まだ、分からないままだ」
そう言うと、直次はリビングを出た。
そして、紗織の声が聞こえる。
「ふーん...そうなんだ...先生」