見えない糸
何か違和感を感じながら、直次は階段を上り、部屋に入った。
どうして紗織は不機嫌なんだろう?
机の引き出しから、新しいタバコを一箱取って考えてみた。
今日は居酒屋に行く事の他に、何か約束事があっただろうか?
誕生日でもないし、お祝い事でもないし...
さっぱり思い出せないまま、直次がリビングに戻ると、今度は紗織がリビングを出た。
俺、何か悪いことしたかな?怒らせるような事したかな?
直次は頭の中をフル回転させていた。
冷蔵庫から缶チューハイを出してソファーに座ると、あんなに吸い殻いっぱいの灰皿から、新しい灰皿に変わっていた。
しかも、さっきのより2回りも小さいサイズの灰皿。
あ、もしかして、タバコ吸いすぎで怒ってる?
そうか、そうか!!部屋が煙たいって、よく注意されてたから、ソレで不機嫌なのか!
タイミングよく紗織が現れたので、直次は
「紗織、ごめんな」
と言いながら頭を下げた。
「え?何のこと?何で謝ってるの?」
紗織は不思議そうに直次を見ていた。
「タバコの吸いすぎで怒ってるんじゃないのか?」
すると、はぁーっと溜め息をついた紗織が言った。
「これ...今日クリーニングに出した服の中に入ってた」
そう言って直次の前に差し出した。
それは小谷から借りた、あの写真だった。