見えない糸
せっかく掴んだと思った糸が、手元からスルッと抜けていく。
そんな感覚だった。
今は写真も手帳も見たくない。
鞄の奥に、見つかった写真を押し込むと、ベッドに倒れこんだ。
なかなかイラつきが治まらない。
タバコを何本も吸っても、ベッドに潜り込んでも、直次の自分に対する怒りは治まらない。
直次は静かに部屋を出てリビングに入った。
カーテンを開けて外を見ると、三日月よりも細くなった月が見える。
窓を開け、ウッドデッキに出ると、そこにある椅子に腰掛けた。
何も考えたくない...正直な気持ちだった。
あまり届かない月明かりと、時々吹く風に揺れて聞こえる草木の音。
自然に慰めて欲しい訳ではないが、自分をポンと置かせてもらいたい、そんな気分だった。
タバコに火を点け、煙をゆっくり吸い込み、ゆっくり吐き出す。
煙を見つめ、赤く光るタバコの先を見つめ、ただボーッとするだけ。
イライラした部分が、だんだん薄れていくような感じがした。
カラカラ...
窓が開く音がして見てみると、紗織が立っていた。
「ちょっと、いいかな?...先生」