見えない糸
直次が施設に顔を出すようになったのは、紗織が5年生の時だから、紗織はかなり前から、施設に出入りしていた事になる。
問題は、高谷が “ いつ ” 登場してくるかだ。
「紗織の家から、しずちゃん先生の所までは近いの?」
「自転車で行くの」
そう紗織が言うと、しばらく静かになった。
「紗織、今どこにいる?」
「しずちゃん先生の所...」
紗織の表情が変化した。
「そこには、誰がいるの?」
「しずちゃん先生と......ママ...」
ママ?!
紗織の母親は、施設にも顔を出していたのか。
小谷が紗織の母親と友達だったし、紗織を迎えに来た時に話もするだろう。
そこは何も不思議な所は無かった。
前回の、だいぶ前の治療で、紗織は小学校1年生だった。
だから、今より時間を戻す必要はない。
これからだ...小学4年生から小学校を卒業するまでの間。
ここに重要な “ 何か ” が絶対にある。
直次は、目を閉じ椅子に座る紗織が気になった。
大丈夫だろうか...
記憶の扉の向こうにある『事実』を、受け止められるのだろうか...