見えない糸
直次自身も緊張してきた。
小谷から少しは話を聞いているが、どうして紗織が記憶を無くしてしまったのか、その辺は全く分からない。
せっかく、紗織が手にしている過去の扉の鍵を、無駄なものにしてはいけない。
直次は音をたてないように深呼吸した後、紗織に話しかけた。
「さあ、紗織...今は10歳、小学4年生だ」
紗織は小さく頷いた。
「今どこにいる?」
静かに問いかけたが、紗織は答えなかった。
また、前回と同じか?!
『話したくない、分からない』で、終わってしまうのか?!
無理もないか。深夜にコレをしてるんだから。
次回に持ち越しだな。
今日はここまでにしよう、そう言いかけた時
「...自分の家」
紗織は呟くように答えた。
「そうか。誰かいるかい?」
直次は、紗織が次に口にする言葉を待っていた。
急かしてはいけない、紗織が話すまで待つんだ!
何度も自分に言い聞かせながら、黙って紗織の様子を見ていた。
「...ママ...」
「ママがいるんだね?ママは何してるの?」
「......泣いてる...」
「泣いてるの?ママの他に誰かいるかい?」
「うん...」
ついに来たか!!
「紗織、ママの他にいるのは誰だい?」
直次は問いかけた。
「...しずちゃん先生」