見えない糸
急激な紗織の変化に、直次は驚いた。
紗織の体は硬直し、額には汗が出ている。
【このままでは危険だ】
そう判断した直次は、紗織を『過去』から『現在』に引き戻した。
ゆっくり目を開ける紗織だが、何かに怯えてるような目をしている。
「大丈夫か?紗織...」
直次は声をかけた。
紗織は直次の顔を見ると、何度も深呼吸をしてから
「うん...」
と、呟くように言った。
「本当に大丈夫なのか?すごい汗だぞ」
まだボーっとしている紗織に、ハンカチを渡そうと紗織に近付いた途端
「やめて!!」
紗織は直次の手を叩いた後、ハッとして
「ごめんなさい...」
と、うつ向いた。
「いや、気にすることはないよ。じゃ、ハンカチここに置いておくから。落ち着いたらリビングにおいで」
直次はハンカチをテーブルに置くと、タバコとライターを持って部屋を出た。
普通は紗織が落ち着くまで、一緒にいてあげるものだが、最後に思い出した出来事は、恐らく高谷の事だとすると...
あまり想像したくないが、逃げ出したくなる何かがあったんだとしたら、今ここで一緒にいるより、離れた方がいいのかもしれない。
そう思い、直次は紗織を部屋に残してきたのだ。