見えない糸
冷蔵庫を開けると、手前にある缶ビールを避けて、奥にある缶コーヒーを取り出し、それを持ってリビング外のウッドデッキに出た。
東の空が藍色がかってきている。朝と夜が東と西で色が少しずつ変わっている。
紗織の心は、夜明けを迎えるこの空のように、明るくなってきているのだろうか。
タバコを吸いながら、ボーッと空を見上げていた。
コンコン...窓を叩く音が聞こえ、振り返ると紗織が手招きしている。
「もう落ち着いたのか?紗織」
リビングに入ると、直次は優しく声をかけた。
「うん。ねぇ、タバコ吸いすぎだってば!ヘビースモーカーより悪いよ。先生は医者なんだからさぁ、もっと手本になるような生活しなきゃダメじゃん!」
「あ、ああ...」
直次はソファーに座りテレビをつけた。
「テレビ消してよ、先生。こんな時間に面白い番組なんてやってないわよ」
紗織はリモコンでテレビを消した。
「先生、これから話す事を、よく聞いて欲しいの。アタシ思い出したんだ」
直次の左隣に、紗織はゆっくり腰掛けると、真剣な眼差しで言った。
その表情から、紗織の覚悟がハッキリと分かった。