見えない糸
紗織は自分の胸に手を当てると、大きく深呼吸をした。
この張りつめた空気...
彼女の心臓の鼓動が、直次にも移り伝わるように感じる。
唇を噛んだり、強く握り拳を作ったりして、なかなか話し出そうとしない彼女を見て
「紗織、今すぐ言わなくてもいいんだぞ...」
直次は優しく声をかけた。
でも、紗織は首を横に振った。
時計の秒針の音だけが、二人の空間を支配する。
この状態になってだいぶ経つが、紗織のタイミングを待つしかない。
空の色は、光を含んだ色のグラデーション。
幕が開き『今日』という日のスポットライトが街を照らしだす。
「徹夜しちゃったね…」
紗織の呟きに直次は「ああ」と返事するだけだった。
「コーヒー淹れるね」
紗織は立ち上がると、キッチンに向かった。