キスフレンド【完】
姫と言葉を交わしたのは、それから数か月経ってからだった。
いつものように屋上に座り込み、空を見上げていると入口の扉が開いて。
そこには、俺を見て逃げるように背中を向けた姫がいた。
『とって食ったりしないよ』
引き止め方が分からずにそう言うと、姫は足を止めてゆっくりと振り返った。
あの時姫が振り返らずにそのまま屋上から出て行っていれば、俺たちにはもう何の接点もなかっただろう。
姫とはそれから、屋上で何度か言葉を交わした。
そして、キスをした。
姫からのキスを俺は自然と受け入れていた。
他の女とセックスは出来てもキスだけはしなかった。
いや、違う。できなかった。
キスをする意味がなかったから。
キスをしなくても、セックスはできる。
愛のないセックスにキスなんていらない。
だけど、姫とはキスをした。セックスを抜きに。
今まで、どの女ともキスをしたいと思ったことなんてなかったのに。
自分の変化に自分自身が一番驚いていた。