こいのはなし2。
バス
二十歳で就職して、早一年。
毎日使う、通勤のバス。
半年ほど前から、始発から2つ目のバス停から乗ってくる、スーツ姿の人がいる。
だいたい、いつも私が座る席の近くに、その人は居た。
神経質そうで、真面目な雰囲気。
私より、少し歳が上な感じ。
進行方向から右手に鞄を持って、左手はつり革。いつもそうやって乗っていた。
いつも通りの風景だけれど、今日は少し違っていた。
「やだ、痴漢!!この人痴漢です!!」
カン高い声。
スーツの彼の後ろにたっていた女子高生だ。
太ももが半分も見えそうな短いスカートを履いた女子高生が、
スーツの彼を指差して叫んでいた。
一斉に集まる、視線。
「えっ!?なに、僕!?」
スーツの彼は、当然驚いていた。
騒然とする車内。
「僕!?じゃねーよ、いまアタシのお尻触ったでしょ!?」
「変な言いがかりは止してくれよ、僕は触ったりしてない」
「はぁ!?何言ってんの!?触った癖に!!」
ヒートアップした女子高生は、そのままバスの運転手さんに、
バスを止めて通報しろと喚きたてた。
朝のラッシュ時間帯。
バスは満員。
揺れたら接触する可能性だってあるだろうけれど。
乗客達は迷惑そうな顔をしたり、スーツの彼を白い目で見たりしていた。
「言い掛かりも大概にしないか。僕が君に触ったなんてどうして言えるんだ」
「アンタがアタシのお尻掴んだんでしょ!?言い掛かりとかふざけんなよ、痴漢のくせに」
女子高生がますます怒鳴る。
「ちょっと、マジ次の停留所で降りてよ警察呼ぶから!!」
叫び出した女子高生が、携帯を取り出す。
「おい、僕じゃないと言ってるだろ!!」
スーツの彼が、女子高生の手から携帯を取り上げようとしたのを見て、
「あのっ!!」
私は、とっさに声を上げていた。
今度は、私に視線が集まった。