求愛
「ごめんね、直人。
梢ちょっと色々あって、今精神的に不安定っていうか。」


濁すように言ってみたが、彼は大きなため息と共に頭を抱えた。



「俺の所為で泣かせたってことだよな?」


「違うよ、そうじゃない。」


「なら、どうして!」


直人の気持ちは知ってるが、だからってレイプされただなんてことを、易々とあたしからは口には出来ない。


沈黙の帳が重く圧し掛かる。



「昔は梢のこと一番知ってるのは俺だったはずなのに、今は何もわかんないや。」


直人の呟きが消えた。



「ホントは梢だってきっと、あんな風に言いたかったはずじゃないんだよ。」


カーテンがはためき、少し湿った風が舞った。


あたしは息を吐く。



「ねぇ、直人にお願いがあるんだけど。」


「………」


「何があっても、何を知っても、梢のこと見捨てないであげて。」


「どういうこと?」


直人は怪訝そうに眉を寄せるが、



「直人は梢の前で、変わらないであり続けてよ。」

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