求愛
ふたりで教室を出て、廊下を歩き、階段まで来たところでその姿を発見した。


慰める乃愛と、涙を拭った梢。



「ほら、梢。
隣同士なんだし、たまには一緒に帰ろうぜ。」


嫌よ、とまだ強がる彼女に、



「んなこと言ってっと、帰りにガリガリくん買ってやらねぇぞ?」


それを聞き、乃愛がぷっと吹き出した。


あたしも思わず笑ってしまい、



「梢、今日は直人と一緒に帰りなよ。」


「ちょっ、何でよ、リサ!」


「大丈夫だって。
直人はあいつらとは違うって、ちゃんとわかってるでしょ?」


いつまでも傷を抱えながら内にこもるより、時には荒療治でもこんな風にすべきなのだ。


梢は一瞬驚いて、でもすぐに諦めるように息を吐いた。



「アンタはひとりじゃないよ。」


「そうだよ。
何かあれば、いつだってうちらが助けるから。」


あたしが言って、乃愛が言うと、直人は笑いながら梢に右手を差し出した。


それは先ほど彼女が振り払ったもの。



「帰ろう、こず。」


恐る恐る梢はそれを握り返す。


涙でぐしゃぐちゃな彼女の顔は、耳まで真っ赤になっていた。



「あとは任せたよ、直人。」

< 141 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop