求愛
彼は後ろ手にあたし達に向け、手をヒラヒラとさせる。


涙を拭いながら歩く梢はまるで、小さな子供みたいだ。


直人に手を引かれながら帰る彼女の背中を見つめていると、胸の中にあたたかい何かが込み上げてきた気がした。


あたしと乃愛は顔を見合わせ、笑ってしまう。



「直人ってやっぱりすごいね。」


「そうだね。」


「あたし、ちょっと羨ましくなっちゃった。」


彼女はそう言って肩をすくめた。


真っ直ぐで、優しさに溢れた直人は、まるで太陽のような人だ。


だからそれに染められたなら、きっと梢は幸せになれる気がするから。



「梢はきっと、見えるものから目を背けて、見えないものばかり必死で見ようとするから悪かったんだよ。」


いつも直人は、彼女のすぐ傍にいたのにね。



「自分のことを想ってくれる人が近くにいるって、実はすごいことなんだよね。」


乃愛も同意したのように頷く。


あたし達はいつまでも、ふたりの背を見送っていた。


友情なんてクソ喰らえだと思っていたけれど、でも出会いこそが一番尊いものだ。



「ねぇ、うちらも帰ろうよ。」


どちらからともなくそう言って、あたし達も帰路についた。

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