求愛
春樹は改まった顔をしているけれど、どうせまた金の無心か何かに違いない。


そんなことに付き合っていられないし、こんな場所で誰かに見られでもしたら、それこそ最悪の極みだ。


けれど彼は引こうとはしない。



「いい加減にしてよ!」


だから声を荒げたのに、



「うるせぇんだよ!」


逆に唇を噛み締めた彼によって腕を掴まれ、反射的に肩が上がった。


同じ血を分けているとはいえ、男女の違いは大きなものだ。


苦痛と嫌悪感に顔が歪む。



「そんなに俺が憎いのかよ!
一生俺を恨んでりゃ、てめぇはそれで満足なのかよ!」


春樹の怒声が響き渡った。


だって、憎んで恨み続ける以外、方法なんてないじゃない。


“仲の良かった姉弟”の姿なんて、もう消えてしまったのだから。



「じゃああたしにどうしろって言うのよ!」


渾身の力でその手を振り払い、肩で息をして呼吸を整えた。



「辛いからって今まで好き勝手に振る舞って周りに迷惑掛けて生きてきたアンタが、自己陶酔に浸ってあたしを責める権利、あんの?!」


「………」


「甘ったれんじゃないわよ、ふざけんな!」


あたし達はもう、互いを許す術なんて見つけられないから。


春樹の傷ついたような顔から目を逸らした。

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