求愛
彼は悔しそうに顔を覆い、あたしは唇を噛み締める。


5年間、何度も何度もこんな言い争いをし、その度に話は平行線のまま、むしろ関係だけが悪化してきた。


だから今もまだ、出口なんて見えないままだ。



「もう用は済んだでしょ?」


そう吐き捨てれば、待てよ、と言った彼にまた腕を捕えられた。


本当にいい加減にしてほしい。



「触らないでってば!」


だから必死で抵抗した。


が、その瞬間に春樹は、あたしの後方を見て驚いたように目を丸くする。


何なのかと恐る恐る振り向いた瞬間、



「…あっ…」


急にあたしを掴んでいた手の力が緩められた。


そこに佇んでいたのがタカだったから。



「何やってんだよ!」


その言葉は、あたしと春樹に向けられたもの。



「おい、そいつから手離せ。」


タカは怪訝に歪めた瞳であたし達を引き剥がした。


春樹は状況を飲み込めずに困惑した様子だが、あたしは唇を噛み締めて顔を俯かせることしか出来ない。


知られたくはなかったのに。



「どういうことだ?」

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