求愛
別に春樹を陥れるためにタカの部屋に通ってたわけじゃないし、ましてや取り入ろうとだなんてしていないのに。


偶然の出会いと交錯した関係が入り混じったように絡まって、気力もなくあたしはその場にうずくまった。



「雷帝さん、コイツに騙されないでくださいよ!」


「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ、春樹!」


頭上で繰り返される言い争いに耐え兼ね、



「もうやめて。」


あたしは吐き出すように拳を作った。


どうしていつもいつも、あたしの小さな幸福さえコイツに奪われなければならないのだろう。


あの事件の所為で、順風満帆だった私立中学を辞めさせられ、友達からも白い目で見られ、挙句、見知らぬ土地に引っ越しまでさせられた。


春樹の所為で何もかもを失ったのに。


なのに、今度はタカとの関係までもが壊される。



「消えてよ、春樹!」


擦り剥いた膝よりずっと、張り裂けそうな胸が痛かった。



「…タカだけがあたしの救いなのにっ…」


もう、タカだけなのに。


視界が赤黒く染まるまでに、悔しさだけが込み上げてきた。


怒りも、絶望も、全てが混濁した中で、次第に呼吸が出来なくなっていく。



「おい、リサ!」


伸びてきたタカの腕に無意識のうちに縋りついた。


その様子を見た春樹は、急に2,3歩足を引き、逃げるように駆け出す。


あたしは苦しさの中で脂汗を滲ませながら、徐々に遠のく意識を手放した。

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