求愛
生まれてこなければ良かったのは、あたしだったのか、春樹だったのか。


盲目的なまでに研究に命を掛けているお父さんと、友人とのパーティーに勤しむばかりのお母さんは、どうしてあたし達なんかを産み落としたのだろう。


ただもう、心も、体も、痛くて堪らないの。


憎しみ合うことでは何も生まれないと、わかっているはずなのに。





ねぇ、春樹。


今も許すことが出来なくてごめんね。









「リサ、平気か?」


漂う意識を引き戻した時、タカの部屋で、彼の腕によって強く抱き締められていた。


そのぬくもりが、恋しいまでに愛しくて、だからタカの胸に顔をうずめるようにして縋ってしまう。


居場所なんてもう、この腕の中だけで良いから。



「あたし、タカが好きだよ。」


「わかってるよ、大丈夫だから。」


タカはあたしをなだめるようにして背中をさすってくれた。


そして彼はあたしの姿をその瞳の中に入れ、




「なぁ、聞いても良い?」


伺うようにして言葉を手繰り寄せる。



「お前が世界で一番大嫌いだって言ってたのは、弟の春樹?」


「…うん。」

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