求愛
「けど、タカさんがあんまり飲み歩いたりしないのって、リサがいたからなんだね。」


結香さんが茶化すように言うが、



「いや、タカは元々キャバとか嫌いだし、人が多い場所で騒ぎながら飲むのが苦手なだけだよ。
つーかコイツは基本、仕事以外でそういうの行かないしな。」


道明さんがお兄ちゃんみたいな口調で笑って返す。


それはアイさんがキャバ嬢として働いていたことと何か関係があるのかと思ったけど、やっぱり聞くべきではないような気がした。


タカはあたしの向かいで、興味もなさげに煙草ばかり吸っている。


それからみんなで適当に談笑し、結香さんがトイレに行くというので、あたしも同じように席を立った。


鏡の前でメイクを直す彼女に、



「結香さん、あの、この前はすいませんでした。
何か結局ちゃんとお礼も出来てないままで。」


「良いよ、そんなことは。
それより梢はもう大丈夫っぽい?」


「はい、微妙に。」


良かった、と彼女は言って、胸を撫で下ろす。


本当に優しい先輩で、道明さんと並んでいても違和感がないように見えた。



「リサはタカさんが大好きなんだね。」


「…えっ…」


「だってさっきから一緒にいても、向こうばっか気にしてたから。」


視線というものは、どうして隠せないのか。


あたしが苦笑いだけを返すと、結香さんは息を吐いて宙を仰いだ。



「何か羨ましいな、そういうの。」

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