求愛
テレビの中では赤と青のジャージを着たお笑い芸人が、ギターを弾きながらお馴染みのフレーズで歌っていた。


けれどまるでそれは、別世界のことのよう。



「おい、リサ!」


肩口を掴まれ、びくりとしてしまう。


堪らずタカから目を逸らした。



「お母さんが、帰ってきた。」


「……え?」


「あたし、呼ばれたし、行かなきゃ。」


説明にすらなっていない言葉を発してみれば、やっぱり悔しさは拭えない。


結局はあたしの自由なんて、あの人の保護下にあってこそのものだ。



「お前のこと今まで散々放っておいたヤツのところに行く必要なんてあるのかよ!」


あたしのただならぬ様子にタカは声を荒げるけれど、



「ごめん、でも絶対ちゃんとここに帰ってくるから。」


まるで自分自身に言い聞かせるかのような台詞だった。


タカは行くなといった風にあたしを抱き寄せる。


それでも、どうせいつかは向き合わなければならないことだから。



「心配しなくても、魔女に煮て食われるってわけじゃないんだからさ。」


もう何度、彼はあたしのためにこんなにも悲しげな顔をしてくれただろう。


一度タカにぎゅっと抱き付いてから、体を離した。



「大丈夫だよ。」


そんな言葉を残し、あたしは彼の部屋を後にした。

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