求愛
耳障りな金切り声だ。


何より、春樹が怖いからって、当て付けのようにして、あたしにばかり怒鳴り散らさないでほしいものだけど。


馬鹿馬鹿しくて、笑うことすら億劫になるじゃない。



「大体、そもそもの間違いは、リサに春樹の監視を頼んだことよ!」


嘘言わないでよ。


あんたらは、全てをあたしに押し付け、面倒事や他人の目から逃れるように海外に行っただけじゃない。


あの頃、荒れる春樹が嫌であたしも同じように家に帰らなくなり、結局は言うことひとつ聞かなくなった子供を持て余したのはそっちだろうが。



「こんなことになるなら、全寮制の学校にでも行かせるべきだった!」


自らがお腹を痛めて産んだ子に対し、愛情の欠片すらないような台詞。


彼女の思い描いていたレールから外れたあたし達は、どうしていつもいつも、こんなにも悪く言われなければならないのか。



「不埒な娘と加害者の息子なんて、世間にどう顔向けすれば良いのよ!」


お母さんが言った刹那、バンッ、と机を叩いたのは、あたしの右隣りに座っている春樹だった。



「黙れよ、クソババア!
俺らのこと置き去りにして捨てたヤツが、偉そうに世間がどうとか言う筋合いあんのかよ!」


「…なっ…」


「俺と姉貴が今までどんな想いで生きてきたか、考えたことなんかねぇくせに!」


そうだね、春樹。


ずっとずっと、あたし達は苦しかったよね。


誰も味方になってはくれず、結局は互いを傷つける術しか見い出せなかったんだから。


吐き出したような彼の言葉に、ただ悲しくさせられた。

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