求愛
マンションのエントランスを抜けて、外を歩いていると、タカと初めて会った公園まで差し掛かった。


だから思い出すようにして足を止めてしまい、そこを眺めていると、



「…春樹?」


薄暗い園内のブランコに腰掛けて煙草を吹かす彼の姿。


すっかり遊具も似合わなくなった体躯なのに、笑ってしまいそうになる。



「ねぇ、あたしにも煙草くれない?」


先ほど拾うこともせずに家を出てしまったために、手持ち無沙汰だ。


彼は何も言わずにセブンスターを差し出してきた。


火をつけて煙を吸い込んでみるも、それは恐ろしく苦く、咳き込んでしまうと、今度は鼻で笑われた。



「ジャングルジムから落ちて泣いてた姉貴が今は煙草吸ってんだから、あれってすっげぇ昔のことなんだよな。」


「アンタは金髪ピアスじゃなかったしね。」


なんて、まともに話したのは、実に5年ぶりかもしれない。


小さな頃は、よくふたりでこの公園で遊んでいたはずなのに、おかしな話だ。


あたしは少し離れた位置にある滑り台に寄り掛かると、彼は息を吐いて言葉を手繰り寄せた。



「俺、あの後さぁ、雷帝さんに頭下げられちゃって。」


「……え?」


「例えリサと春樹が憎み合ってたとしても、俺にとってはアイツが大事だから、って。」


「………」


「だから頼むから、もう姉弟で傷つけ合わないでくれ、ってさ。」


タカ、が?


目を見張ったあたしに彼は、



「姉貴の辛そうな顔とか見たくないって、あの人言ってたから。」

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