求愛

記憶の束縛

うだるような暑さの中で、夏休みに入って以来久々に、女だけでカフェにやってきた。


ミントティーを飲む梢と、ケーキを頬張る乃愛、そして煙草を吹かすあたし。


友達というのは不思議なもので、話は尽きない。



「ねぇ、梢は最近何やってたの?」


何気なくあたしが聞くと、ため息混じりの彼女は、



「何かね、毎日直人がうちに押し掛けてくるんだよ。」


「マジ?!」


「課題見せろとか、ゲームしようとか、ちょっと鬱陶しいけどさ。」


「仲良いじゃん。」


と、乃愛が横から笑った。


梢はテスト後のあの日、心配してくるばかりの直人がうざったくて、爆発したように怒鳴り散らしたのだという。


レイプされたんだよ、汚ないんだよ、だからもう近付かないでよ、と。


けれど、泣き叫ぶ彼女を、直人は抱き締めたのだとか。



「直人はさぁ、いっつも一緒にいるのに何もしてこないし、今まで通りヘラヘラだし、よくわかんない。」


真っ赤な顔をして言う梢を見て、あたしと乃愛は噴き出したように笑ってしまった。



「梢それ、直人のこと好きってことじゃん?」


乃愛は梢を肘で小突く。


うるさいなぁ、と、やっぱり耳まで真っ赤にした彼女は可愛い。


すっかり遊ぶことをやめて落ち着いた梢は、前よりずっと自然体に見えた。



「んじゃあ、そろそろ時間だし、行こう。」

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