求愛
あたし達は2階席の最前列を陣取り、柵から身を乗り出して試合を見ていた。


直人のプレーなんてぶっちゃけ初めて見たけれど、でも噂通り、バスケなんか知らないあたしでも上手いと思ってしまう。


2人を交わしての3ポイントシュートは、実に鮮やかだ。


彼は声援の中で、あたし達の方へとピースを掲げて笑った。



「直人ー!
梢が惚れ直しちゃうって言ってるよー!」


と、乃愛の方が煽って楽しそうだけど。


梢は終始涙を浮かべたまま、ずっと直人を目で追い続けていた。



「もう、そんなに泣いてたら直人のことちゃんと見れないでしょ。」


「そうだよ、梢のためにあんな最高なプレーしてんだからさ。」


普段は見せない真剣な顔で、でも楽しそうにバスケをする直人。


パスをカットされても、ファウルで突き飛ばされても、彼は決して諦めない目をしている。


相手は地元で一番強い学校らしいけど、それに立ち向かう姿は本当に格好良いと思った。



「梢も強がってばっかだと、直人のこと取られちゃうよ。」


「そうそう、アイツが本気の告白してくれたんだから、アンタも素直に答えてやらなきゃじゃん。」


梢は唇を噛み締めた。



「だってあたし、怖いんだもん。」


「けど、直人だけは他の男と違うって、梢ちゃんとわかってるでしょ?」


「………」


「アンタ今、愛されてんだからさ。
そういうの大切にしなきゃ、バチが当たるよ。」


言ってやると、梢はあたしの胸に縋るように抱き付いて来て、また涙した。


乃愛は複雑そうな顔で笑い、そんな中で試合終了のホイッスルが鳴る。


会場はその瞬間に歓喜の声に包まれた。


大逆転の末の、我が校の勝利だった。

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