求愛
そこからは断片的にしか覚えていない。


あれからどれくらいかの後、タカと道明さんはあたしを見つけ出してくれ、安堵と恐怖の中で彼らに縋るように泣き喚いた。


すぐに車に乗せられたが、体の震えは収まらず、フラッシュバックしたように頭にはあの男の顔ばかりが浮かぶ。


抱えられてタカの部屋に戻った瞬間、あたしはお風呂場に走った。



「おい、リサ!」


「やだっ、あたし汚いの!」


裸足だった足の裏や擦りむいた膝からは血が滲み、砂埃に汚れた体と、抵抗して破れた衣服。


けれど、それよりずっと、あたしの繰り返してきた過去の過ちは醜いものだ。


突発的にシャワーの冷水を頭から浴び、剃刀を手にして振り回せば、それはタカの左腕を切り裂いた。


一直線に溢れる鮮血に彼は顔を歪めながらも、落ち着けるようにと抱き締められて、あたしはまた声を上げて泣いた。


剃刀がその場に転がり、タカの血は冷水と混ざりながら排水溝へと流れる。



「…ごめっ、あたしっ…」


「心配すんなよ、こんなん痛くねぇから。」


崩れ落ちて、タカの胸に縋って涙した。


道明さんはシャワーを止め、あたし達にバスタオルを掛けてくれる。


彼は何も言わずにきびすを返した。


それを見送ったタカは、あたしの濡れた服を脱がして着替えさせてくれ、自分も同じように着替えだけを済ませる。


手を引かれてリビングに戻ると、道明さんがふたり分の熱すぎるコーヒーを淹れてくれていた。


座らされてからやっと、自分の状況を飲み込めたのだと思う。



「リサ、話せるか?」

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