求愛
あたしはあれから携帯を新しくし、番号も変えた。


結局、整理した電話帳に残しておいたのは必要最低限だけで、ショップ等を除けばそれは、30件にも満たない数。


そしてその携帯に春樹からの着信が表示されたのは、夏休みも中盤に差し掛かったある日のことだった。


別にあたし達はあれからだって何か関係が変わったわけではないので、今も頻繁に連絡を取り合うようなことはないのだけれど。



『ババア、昨日ニューヨークに帰ったぜ。』


「それで?」


『もうあなた達は勝手に生きなさい、ってさ。
金を振り込むのも姉貴が高校卒業するまでで、後は一切干渉しないから、って伝言。』


親子の関係は3月まで、ねぇ。


自分から断ち切ったとはいえ、向こうも随分と薄情なものだ。



『姉貴、どうすんの?』


「何が?」


『卒業後のことだよ。』


「わかんないし、考えてない。」


ベランダに出て景色を見つめていると、もうどれくらいまともに外に出ていないかも思い出せない。


タカや道明さんがいなければコンビニにさえ行かないあたしに、強烈な真夏の太陽は眩しすぎるものだった。



「でもアンタもあたしも、もうあの家には帰れないよね。」


と、返すと、春樹は少し聞きにくそうな様子で、



『今って雷帝さんとこで暮らしてんだろ?』


「だから?」


『だから卒業しても、どうせ姉貴は住むとこ困らねぇだろ、って話。』

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