求愛
歯を見せて頷いた。



「まぁ、当分は例の件があるからゴタつくだろうけど、それが終わったら俺から冬柴さんに上手く言っといてやるから。」


「うん。」


道明さんの話では、年末くらいには全てのカタがつくらしい。


そうすればタカは、普通の道に戻れるということだ。



「しっかし、お前が真っ当に働きながら生きる姿なんか、ちょっと想像出来ねぇけどな。」


「俺もだよ。」


「おいおい、それ大丈夫かよ。」


ふたりはまるで、昔からの決めごとだったように、スムーズに話をまとめていた。


にわかには信じられないあたしをよそに、彼らはまだ飲み足りないのかビールで乾杯なんかをしている。


話が上手くいきすぎるというのは、それはそれで少し怖い気もするけれど。


でも道明さんがいることだし、きっと大丈夫に違いない。



「そういや堀内組は、内村さんがパクられて大変なんじゃねぇの?」


「あぁ、ちょっとな。
あの取り引きが成立するまでは、みんなピリピリしてっから。」


「けどすげぇよな、あの量のトカレフを密輸するなんて、俺には考えられねぇもん。」


「まぁ、これが成功すりゃあ、うちの組は一躍天下だろうけどよ。」


まるで他人事のように話すふたりは、あたしに気付き、あっ、という顔をした。


そして内緒話を聞かれた子供のように顔を見合わせて笑う。


まったく、こういうことをあたしに聞かせないでほしいものだけど。


お風呂行くね、とだけ言い、さっさとあたしは無視を貫く形でリビングを後にした。


心地の良い疲労によって眠くなる。

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