求愛
ぽつり、ぽつり、と雨粒が地面を濡らし始めていた。


もうすっかり季節は秋なのかもしれない、石階段を下った先にある、掘っ建て小屋のようなバス停の軒下に入った。


いや、バス停といっても、もう廃線しているらしく、路線図には大きなバツ印がつけられているのだけれど。


通り雨なのか、一気に雨足が強くなり、つま先を濡らすそれに少し身じろいだ。


時折ヘッドライトを照らしながら車は通るが、あたしだってさすがにヒッチハイクだけは出来ない。


その場にうずくまり、膝を抱えると、押し寄せてくる睡魔に負けて目を瞑った。


意識だけが混濁していく。








そうだ、あれはまだ、あたしが6歳だった頃。


春樹と近所の友達数人で集まって、何をして遊ぼうかと話していた時のこと。



「かくれんぼしようよ!」


誰かの提案に賛成し、じゃんけんをした結果、オニは春樹になった。


当時、誰より体が小さかったあたしは、かくれんぼにだけは絶対の自信があり、いつも一番最後まで見つからなかった。


そう、その日も同じ。


運動公園並の広さがある場所で、あたしは物置小屋に身を潜め、わくわくしながら待っていた。


ひとり、またひとりとみんなが捕まる声が聞こえる。


けれど突然降り出した雨。


急に怖くなったけれど、でもここから出れば負けてしまう。


大粒の涙を零しながらも、妙な意地だけで動こうとしなかった時、突如として、その扉が開いた。



「おねえちゃん、みーつけた!」


春樹だった。

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