求愛
ブオン、というけたたましいバイクのエンジン音に驚いて目を覚ました時、辺りはすっかり真っ暗闇に包まれていた。


雨は辛うじて止んでいるものの、街灯のひとつさえもない場所だ。


目の前にいる人の影はこちらへと歩み寄ってきて、



「見つけた。」


どうしてだろう。


どうしてあたしはいつも、春樹に見つけられてしまうのだろう。



「すげぇ探したんだぞ、てめぇ。」


「………」


「ったく、ガキじゃねぇんだから、どんだけ苦労したと思ってんだよ。」


春樹は肩をすくめ、咥えていた煙草を投げ捨てた。



「あのさぁ、雷帝さんが俺に電話してきて、お前と連絡が取れねぇとか言い出して。」


あ、と思い、慌てて携帯を取り出した。


けれど圏外になっていて、おまけに時刻は夜の8時も過ぎた頃。



「最近、街じゃ組関係のトラブルが多いから、もしも何かあったりしたら、って。」


「………」


「俺も一応気になったけど、姉貴が普段どこでどうしてるのかなんて知らねぇし。
だから考えられるとこなんて、ここしかねぇじゃん。」


春樹はあたしを立たせようと手を伸ばすが、腕を掴まれそうになり、びくりと肩が上がった。


無意識とはいえ、今もあの痛みは体が覚えているということか。


そんなあたしを見て一瞬驚いて、でも彼は舌打ちを混じらせてから、



「悪ぃ。」


ぽつりと呟かれた台詞。


春樹はあたしと同じようにその場にしゃがみ込んだ。

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