求愛
数分後、タカがお風呂場から戻ってきた。


タオルを頭から被り、スウェットの下だけを履いた状態だ。


目が合うと、あたしが手に持っていたはずの缶ビールは、容易く奪われてしまう。



「おいおい、もう半分以上ねぇじゃん。
お前どんだけ飲むの早ぇんだよ。」


タカは肩をすくめてから、残りを流し込んだ。


何であたしに会いに来て、そしてこんなところまで連れてきたのだろうかと、今更思う。


水滴を滴らせる彼の黒い髪。



「ちゃんと乾かさなきゃ風邪引くよ。」


言った時だった。


伸ばし掛けていた手を絡め取られ、逆にタカに押し倒される恰好になってしまった。


落ちてくる唇と、シャンプーの香り。


シャツはたくし上げられ、あらわになった柔肌に彼のもたらす淡い疼きが触れる。


鼓動がうるさくて堪らない。


酒に酔っているのかタカの瞳に酔っているのかわからなくて、羞恥の色に染まってしまう。



「殺してほしいって目してる。」


そうだよ、殺して。


言葉に出来たかどうかは自分でもわからなくて、けれど苦痛と快楽の狭間で声が漏れた。


狭い場所での行為は痛みを伴い、まるで犯すようにタカは、あたしをソファーに沈め、貼り付ける。


物音ひとつ聞こえない部屋の中で、互いの息遣いだけが鮮明に響き、宙を舞う。


何故だかそれは、この広い世界中でふたりぼっちのような気持ちにさせられた。


だからタカの人形でいたかった。

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