求愛
「ねぇ、春樹は?!」


お掛けください、と椅子に座るよう促されたが、それどころじゃない。


声を荒げたあたしに向け、彼はため息をひとつ吐き出し、



「簡潔に言えば、危ない状態であることに変わりありません。」


求めていた答えではない。


どうして医者のくせに、何とかしてくれないのだろう。


彼はCTか何かの画像を見せ、



「こちらを見ていただければわかる通り、脳の損傷が激しく、助かる可能性は極めて低いものと思われます。」


「…そん、な…」


「現時点では、これ以上の手術は彼の体力が持たないでしょうから。」


一応、それ相応の覚悟は決めておいてください。


そんな一言が添えられ、あたしは卒倒してしまいそうだった。


いや、倒れられたなら、どんなに楽だったことか。



「この状態を脱したとしても、植物状態になるか、もしも意識が戻ったとしても、後遺症が残ることは確実でしょう。」


頭の中がぐわんぐわんと揺れている。


続いて見せられたカルテのようなものには、走り書きのような文字がびっしりと埋め尽くされていて、とても読むことは叶わなかった。


一度は助かるんだと希望を見たのに、その直後にまた絶望に襲われる。


血の気を失い青ざめたままのあたしを見て、医師は少し言いにくそうに問うてきた。



「…あの、あなたまだ未成年ですよね?」


「え?」


「今後のことなどを含めても、色々とご承諾いただかなければならない書類もありますし、出来たら親御さんかご親族か、お話の出来る方にいらしていただかないことには…」

< 280 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop