求愛
ふたりでやってきたのは、近場に出来た、最近人気のイタリアンレストラン。


高校生の頃はファーストフードばかりだったことを思えば、少し笑えてしまうのだけど。



「でも未だに思うけど、あのリサがまさか看護師になるなんてねぇ。」


そう、あたしは今、春樹の病院で働いている。


あの頃、担任の先生の配慮もあり、どうにか高校だけは卒業できたものの、その後の進路を決めることもなく、毎日のように塞ぎ込んでいた。


最終的には何度か自殺未遂を繰り返し、死のうとしていた時、乃愛がこの世に命を産み落としたのだ。


心音と名付けられた、赤ちゃん。


そのあたたかさと重さ、何より愛しさに涙が溢れ、あたしはもう一度生きようと誓った。


それからは予備校に通い、一年遅れで看護学校に入学して、今がある。



「ホント、心音のおかげだよ。」


そんなあの子も、もう5歳なのか。



「リサって見るからに子供嫌いだと思ってたけど、心音にだけは超甘いもんね。」


「ま、命の恩人だしね。」


「んなこと言って、頼むから変なおもちゃばっか買い与えないでよ。」


「はいはい、了解でーす。」


笑いながら、運ばれてきた料理に目を輝かせた。


乃愛は満面の笑みのまま、



「あ、そういえば、招待状届いた?」


「うん、来たよー。」


「梢と直人、やっと結婚だもんねぇ。」


「うちら的には、今更かよ、って感じだけどね。」

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