求愛
結局あたしは駅で独りぼっちになってしまった。


携帯にはいくつか誘いのメールは届いているけれど、でも返信する気分にはなれず、とぼとぼと街へときびすを返した。


淀んだ空気と、ノイズだらけの場所。


何故こんなにも賑やかなのに、孤独ばかりが大きくなっていくのだろう。


右を見ても左を見ても、胡散臭い連中ばかりで嫌になる。


歩き疲れ、自動販売機に寄り掛かって携帯を取り出した時、



「何やってんのー?」


早速ナンパ男に声を掛けられた。


彼はラッパーみたいな歩き方で近寄って来て、まるでそれが当然のようにあたしの肩に腕を回す。


その、左の手の甲には、蜘蛛のタトゥーが描かれている。


単に馴れ馴れしいだけか、それともあたしが逃げないようにとしているのか。



「なぁ、ひとりなんだろ?」


男は口角を上げた。


今日はコイツで良いや。


暇を持て余した時はいつも、そうやって顔すら見ずに決めてしまう。



「お腹空いたなぁ、とか思って歩いてたんだけど。」


少し困った風な目で言ってやると、



「じゃあ、どっか食いに行こうよ!」


遊び慣れた男というのは楽だ。


勝手に話を進めてくれるし、口説きますオーラを出してくれるから。


だから適当に相槌を打って、流されてさえいれば良い。

< 37 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop