求愛
「コイツ、もう震えてねぇんだな。」


「肛門をお湯で濡らしたティッシュで拭くとね、母猫に舐めてもらうのと同じで安心するらしいの。」


猫の愛情表現の方法。


だからあたしも、タカが買い物に出ている間にそれを実践したのだ。


そのおかげなのか、子猫も少しは警戒心が緩んだらしく、お皿に注いだ牛乳を一心不乱に舐めていた。



「助かったよ、お前が詳しくて。」


タカは言った。



「なぁ、お前がコイツ飼ってやれない?」


「無理言わないでよ。
うちはマンションだし、そういうの厳しいから。」


何よりアイツがいる以上、殺されかねない。


タカはため息を混じらせてソファーに腰を降ろし、何かを考えるように煙草を咥えた。



「じゃあ、ここで飼うか。」


「は?」


その言葉には、ひどく驚かされた。


里親くらい探せば簡単に見つかるだろうし、何よりこの人がそんなことを言い出すなんて、どうしたというのだろう。



「てか、それ以前にさ、ここってペット飼って良いの?」


問うたあたしに答えず彼は、



「俺、あんま帰って来れねぇかもしれねぇし。」


そう言って、キーケースから鍵を外し、それをあたしに差し出した。



「お前、勝手にうち来て良いから、コイツに餌やっといてよ。」

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