求愛
どれくらいそのままでいただろう、子猫がふにゃふにゃとした鳴き声を上げ、足にすり寄ってきた。


タカが体を離したので、あたしはそれを抱き上げる。



「この子の名前、どうするの?」


聞くと、お前が考えて良いよ、と言われてしまった。


子猫は灰色の瞳であたしをじっと見つめていて、



「シロ。」


だから気付けばそう呟いていた。



「黒猫なのに、シロ?」


人間の身勝手で犠牲になって捨てられた、まだ小さな命。


けれどどうか、あたしのように醜く汚れないでほしい。


恨んだり、憎んだり、そうやって生きるんじゃなく、せめてこの子だけは、真っ白い心のままでいてほしいから。



「シロって名前じゃないと嫌。」


タカはそんなあたしを見て、困ったように笑った。


孤独を寄せ集めたようなあたし達の世界に響き渡る雨音が、今は少しだけ心地が良くも感じてしまう。



「明日、一応病院に連れて行って、病気してないかとか診てもらわなきゃ。」


シロに対して同情めいた感情が生まれてしまうのは、どうしても、自分自身と重ねてしまうからなのかもしれないけれど。


でも、この子にだけは、あたしの精一杯を与えてあげたかった。


それを人は、愛と呼ぶのだろうか。

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