求愛
シロはあたし達にすっかり慣れたのか、ソファーの上で丸くなって目を閉じてしまった。


綺麗な艶のある黒い毛並みを撫でると、喉が鳴る。


こんなにも小さな命に癒されるなんてね。



「ソファー、取られちゃった。」


あたしが笑うと、タカも笑う。


笑ったら、また抱き寄せられて、じゃれるようにキスをされた。



「ちょっと、くすぐったいよ。」


「お前の方が猫みてぇだな。」


きっと、この人に飼い慣らされてしまえば楽なのだろう。


迷子にならないように、どこへも行けないように、首輪をつけて、鎖で繋いでほしいと思った。


いらなくなったらゴミを捨てるように殺してくれれば良いから、だからそれまではタカの思うままに扱ってほしい。


何も考えることなく、この人に完全に所有されてしまえば、もうあんな家には帰らずに済むから。



「ねぇ、今日泊まっても良い?」


「つか、いつでも泊まりに来れば良いし。」


「何それ、あたしがここに住んじゃったらどうするの?」


なのに、彼は口元だけを緩め、鍵を握らせてくれた。


左手に収められた銀色のそれを見つめながら、淡い感傷に胸の奥をくすぐられる。


タカの考えていることは、やっぱりよくわからない。


雨音が寂しげに響く夜だった。

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