求愛
「梢、昔はあんなんじゃなかったんだけどね。」


直人は少し悲しげに宙を仰いだ。



「中学入る頃くらいまでは、素直だったし、みんなに優しかったし、友達も多かった。」


けど、と言葉を切った彼は、



「アイツの姉ちゃん、賢くてさ。
スポーツも勉強も出来る優等生で、いつの間にか比べられるようになって。」


だから耐えきれなくなり、次第に荒れ始めたのだと、直人は教えてくれた。


梢の、それが家に帰りたがらない理由だった。


心配してる直人の気持ちがわからないわけではないけれど、でも彼女がそれを疎ましがっていることも知っている。


人の想いはいつだって一方通行にしかならない。



「直人さぁ、度が過ぎるお人好しは、迷惑にしかならないんだよ?」


「………」


「今は、アンタにはアンタの、やるべき大事なことがあるんじゃないの?」


本当はこんな風に言いたくはない。


でも、直人はスポーツ推薦を蹴ってまで、梢と同じこの学校に入学した。


けれどそれは、いつまで経っても報われることなんかないのだから。



「もうやめときなよ!」


今、最後のインターハイ前の大事な時期に、他のことに心を痛めてる場合じゃないと、あたしは思う。


だってこれじゃ、直人があまりに可哀想だ。



「直人はただ、幼馴染だってことに縛られ過ぎてるだけじゃない?」

< 77 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop