求愛
「手首、まだ痛むか?」


まさか、気に掛けてくれるなんて思わなかったけど。


タカは床に座り込むあたしの方に手を伸ばし、何だかこれじゃあまるで、主従関係のようにも見えるが。


先ほどまで、あたしに向けて鈍色の刃を握っていたその手は、思ったよりずっと骨っぽくて驚いた。


それでも彼は、表情ひとつ変えることはない。



「つか、今更だけどさ、お前高校生だっけ?」


「学生証見たでしょ。」


まぁ、真面目な生徒からは程遠いけど。


ニコチンが肺に満ち、煙はピンクライトに染まる中を揺れるように漂っている。



「親は?」


答えることはしなかった。


するとタカは肩をすくめ、それ以上は聞いては来ない。



「ねぇ、あたしが暴れたり叫んだりしてたら、殺してた?」


「あぁ、殺してた。」


「タカは人を殺したこと、あるの?」


「さぁね、どうだったかな。」


そう言った彼は、冗談とも本気ともつかないような顔をした。


けれど、怖いとは思わないあたしは、やっぱりどこかおかしいのかもしれない。


ただ、あのまま殺してくれれば良かったのにと、心の端で思ってしまう。

< 9 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop