求愛
シロにご飯をあげて、着替えてから、タカと一緒に家を出た。


外はすっかり夜の帳が下りていて、珍しく月が雲間から顔を覗かせている。


ふたりで近所の居酒屋に行き、久しぶりに酒を飲むと、少しだけ濁っていた脳が弛緩された気がした。


そこでダラダラと食べたり飲んだりしながら、店を出たのは2時間以上が過ぎてから。


並んで帰り道を歩いていた時、



「やべー、俺さっきの店に携帯忘れてるわ。」


タカはそう言って足を止めた。



「ちょっと取ってくるから。」


「じゃあ、あたしそこのコンビニで待ってるよ。
どうせ煙草買おうと思ってたし。」


「なら俺のもよろしくー。」


なんて、彼はさっさときびすを返してしまったので、あたしも歩を進めた。


梅雨を前にした夜のわりに、今日は嫌になるほど肌寒い。


ポケットに手を突っ込んで歩いていると、コンビニの駐車場まで差し掛かったところで、足が止まってしまった。


そこには、見覚えのあるあの車から降りてくる人の影。


あっ、と思った時には遅かった。



「あれれ、すげぇ偶然だなぁ。」


男もあたしに気付き、口元に怪しい笑みを浮かべて見せる。


手の甲に蜘蛛を飼っている、いつぞや一発ヤッた彼。


確かにここは街からも近い場所だけど、でも、またこんな風にして会ってしまうなんて。


舌打ちを混じらせながら、面倒なことにだけはなりたくないと瞬時に思った。

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