あした
「な・・・難民だんなんて・・・ゆ・・夕飯食べにきただけです」

 精一杯の見栄を貼ってみるが、不覚にも 涙が出てきた。

誠が 何も言わずポケットから ハンカチを出してテーブルに置いた。

「す・・・すみません・・・」ハンカチで目頭を押さえた。

「あっ・・・・でも、なんで マコさんは ここに?」

姓字を忘れて 印象に残った名前で彼にたずねた。

「ああ 名前覚えていてくれたんだね。でも、マコさんはいただけないな。マコでいいよ。ここは 俺の仕事場だからね。ここで 俺、雇われチーフしてるんだ。」

「雇われチーフ?」

「うん、俺こう見えても 苦学生でね。」

「学生さんだったんだ・・・・」

「そうだよ。 将来はパン屋を開きたくてね ほら この店のすぐ先にある・・・」

「知ってます・・・製菓製パン専門学校ですよね・・・・」

「俺んとこ オヤジは働かないで株運用なんて 半分ギャンブルみたいなことしてるし
 お袋も パチンコでさくらみたいな仕事してるしでね。自分の学費どころか
 自分の食い扶持は自分で稼がないとね・・・・」

「偉いんですね。」

「まっ、俺 一人っ子だし・・・どのみち オヤジとお袋の面倒は俺が見ないと
 いけないから・・・あっ・・・怪我の方は大丈夫?」

「ええ、ごめんなさい・・・病院まで連れてきてもらったのに、家の両親
 マコさんにお礼も言わなかったでしょ?」

「いや いいんだ。お礼してもらいたくて 病院へ君の事運んだわけじゃないし、
 怪我がたいした事無くて 良かったさ。ああ、自転車は 俺の手に今回は負えそうになかったからね・・・知り合いのサイクリング店のオヤジに預けたけど・・・」

「あ・・・そうだったんですね・・・・すみません。」

「いいって・・・・それより もう11時回っているよ。 ご両親心配してるよ
 送っていってあげるから 帰ったほうがいいよ。」
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