あした
幸子と誠が そんな会話をしている所へ ケアホームに入居している 
多恵がやってきた。

見ると、鼻の頭や頬をすりむいて 血を流している。

手にしているのは 病院の中庭咲いていた ラベンダー・・・・


「多恵さん、どうしたの?」

 誠の問いかけに 多恵が 幸子の方を凄い目で睨みつけている。

「雄三さん!!誰よ この 女!!」

「マコ・・・この おばあちゃんは・・・・」

そう尋ねた 幸子の質問には答えず 多恵に穏やかな眼差しを向けて誠が声をかけた

「多恵さん?鼻の頭と頬 すりむいちゃって・・・痛いだろ?」

誠の優しい言葉に 多恵が子供のように声を出して泣き始めた。

「うん、痛いよ。雄三さんに お花を摘んであげようと思ってね・・・
 ちょっと 転んだんだよ。」

「そうか・・・綺麗な顔に 傷が残るといけないから 手当てしてもらいにいこうか」

「雄三さんも 来てくれる?」

「ああ。」

「じゃぁ、私が 車椅子押してあげるわね。」

ベッドから 誠が 車椅子に移ると 多恵はラベンダーを握り締めたまま

誠の乗った 車椅子を押し始めた。

「あっ・・・」

心配になって 思わず 付き添おうとした 幸子を誠が制した。

「大丈夫だよ。お袋・・・ナースステーション すぐ そこだから・・・・」

ラベンダーの香りを残して 多恵が誠の車椅子を押して出て行った。
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