あした
その頃


ドクターが 幸子と友紀人に告げていた・・・・

「痛みがかなり 激しくなってきているようですね・・・・・
 どうしますか?モルヒネの投与をはじめますか? モルヒネを投与し始めたら
 そう 長くない事を 覚悟してください・・・・激痛を止める為だけに投与される
 薬ですから・・・・意識障害、意識の混濁がはじまって、薬が効いているときは
 殆ど 眠っているだけのような状態になります・・・・」

「あの・・・息子に 聞いてからにしてもかまわないでしょうか・・・・」

「息子さん NOだったんですよ・・・・痛くて 苦しいはずなのに、
 まだ 使わないで欲しいって言うんです・・・・」

「それじゃ・・・私達が ドクターに同意する事はできないです・・・
 あの子の貴重な時間ですから・・・・あの子の意志を尊重したいんです。」

「そうですか・・・・しかし・・・苦しむ患者に なんの処置もしないというのも
 医者としては・・・・」

そう言って ドクターは顔を曇らせた。



誠の荒い息遣いと 美咲のすすり泣く声が 病室に響いている。


「美咲・・・・当って・・・・あたって ごめん。
 俺、そろそろ 限界だわ・・・・なぁ・・・美咲・・・」

「うん?なに?」

「こっちにきて 顔 良く見せてくれないか?」

「いや・・・泣き顔だもん・・・」

「お願い・・・・だから」

そう誠に言われ 顔中を手でこすり 誠の顔を覗き込む。

「ふ・・・ひでぇ面してやがる・・・・・ぶ~す。」

そういいながら 美咲の顔に熱で厚い手を差し出した。

「ぶすに 誰がしたんだよ・・・・」

泣きたいのを堪えながら 言い返す・・・・

「わりぃ・・・俺だな・・・・」

そう言いながら 美咲の顔を自分の顔に近づけると 口づけをした。

思わず 驚きの眼で 誠をみつめる美咲。

「お詫びと あん時の返事・・・・」

「あん時の返事って?」

「かたつむり・・・・・・俺も お前の事 忘れない。
 最初で最後の女だ・・・・おまえ・・・・」

「えっ・・・・」

「でもさ・・・・・」

「でも なによ・・・・」

「お前は 俺で最後の男にするなよ・・・・」
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