雨が降ったら

 手紙はまだファイルに収まったままだ。

 ようやく渡せると思い、ひとり浮かれに浮かれていたわたしは、どれだけ愚かだったのだろう。

 なにも知らず、呆れるほど喜び舞い上がっていた。

 何日も前からずっと挟まったままの手紙を取り出す。

 思いを込めてしたためた人生で初めてのラブレターの返事は、一生渡すことの出来ないただの紙切れになってしまった。


(どう、して………っ)


 バスに乗れた――そんなところに運など使わなくたってよかった。

 もっと、もっともっと、それこそ運を使い果たしてでも、彼との"これから"をつなぐなにかに注ぐべきだったのに。

 わたしはつくづく天に見放されているのだと思った。

 封筒に無意識に雫が落ちた。

 握りしめたそれを胸に押し当てる。くしゃりと紙が折れる音がした。


 ……なぜ手紙をもらった次の日、バスを利用しなかったのか。

 彼との距離を一刻も早く縮めたいと願うなら、どうしてすぐさま行動に移さなかったのだろう。

 雨が降ったら。
 雨が降ったら。
 雨が降ったら。

 ……その言葉に縛(しば)り付けられていた。

 たとえ晴れの日でも、彼を驚かせることになってもいい、
 いますぐにでも彼との"これから"を望むなら、約束できない気まぐれの空などあてにせず、さっさと行動するべきだった。


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