雨が降ったら
あたりを見回せば、早々にボタンをすべて奪われたらしい男子が上着を全開にして、
、誇らしげに胸を張っている姿が目についた。
それをじっと見つめていると、わたしの視線に気づいたらしい男子が見せびらかすように
中のワイシャツを波立たせて近づいてきた。
「なに、おれのボタンそんなに欲しかった? 袖ならあとふたつ残ってるけど」
笑顔で腕を上げる男子に、同じく笑顔で首を振る。
「欲しい人は別にいるから」
えっ、と男子は驚いたような顔をして、きょろきょろとあたりを確認してからおもむろに顔を寄せた。
男子は声をひそめて、
「だれだれ。なんなら、こっそりもらってきたげよっか」
首を振る。
「ううん、いい。ありがとう」
「そっか。でも、どうしても欲しくなったら言えよな。離任式のときにでも頼んでやるから」
「うん。卒業おめでとう」
「そっちこそ、おめでとう」
卒業証書の筒を掲げ、肩越しに手を振ると、
晴れやかな笑顔を満面に、男子は仲間の元に戻っていった。