雨が降ったら
手紙、たぶん…何度も書き直してるし。
すこし、ドジな人なんだろうな、と思う。
紙には、消し跡じゃない文字の跡がくっきりと残っている。
おそらく、間になにも挟まないまま、あーでもないこーでもないと言葉を選んでいてこうなったのだろう。
わたしのため、何枚も紙を無駄にしてくれたのだろうと思うと、
告白についてあれこれ思う以前に、自然と手紙に真摯になれた。
そこまでしてくれて疑うのはかえって失礼なことではないだろうか。
天井を見上げて、つぶやく。
「ずっと見てました、か………」
――気づいていないわけではなかった。
名前も知らない――否、いまさっき知った。
名前は、『森田 岳』。
15歳で、中学三年生。わたしと一緒。
学校は、ちがう。
わたしの通っている中学校は自転車通学が認められており、
雨の日と雪の日以外は毎日自転車で学校に通っていた。
彼を見かけていたのはバスの中。
わたしの乗る停留所より前の停留所から彼は乗ってきていた。
優先席のすぐ後ろに腰掛けて、いつも耳にイヤホンをはめていた。
長時間乗車しなければならないほどではないわたしは、いつも入り口近くのシートに掴まっていた。
というか、わたしが乗る頃にはほぼ満席で、座れた試しがない。
そう考えると、常に堂々とシートを利用していた彼は相当前の停留所から乗っていたことになる。
いつも横顔が眠たげだったのは時間が早かったせいなのだろうか。
「雨の日が、待ち遠しくてしょうがなかった――」
わたしは天気が崩れたとき以外はバスに乗らない。
彼もそうなのか、常にバス利用者なのかはわからないけれど、どちらにせよ、会えるのは雨の日だけだった。
雨が降るたび、彼はどんな想いだっただろう。
わたしの知らないところでひそかに舞い上がっていたのだろうか。
やった、とか小さく言ってみたりしただろうか。