雨が降ったら
「卒業、おめでとうございます」
財布片手に運賃箱までやって来ると、ふいに運転手から声をかけられた。
驚いたけれど、素直に礼を言う。
「ありがとうございます。
いままで、ありがとうございました」
「寂しくなりますね。あなたも、彼もいなくなってしまうと思うと」
「彼?」
わたしの問いには答えず、足元からビニール袋の結びつけられた傘を取り出すと、これを、と差し出した。
「預かり物です」
「わたしに?」
笑顔で頷く運転手に、よくわからないままとりあえず受け取り、頭を下げてバスを降りる。
ほどなくしてバスは発車した。
きつく結びつけられたビニール袋をほどいた瞬間、
わたしは思わず息を呑んだ。
そこには、すこしくすんだ金色の前ボタンが一つと、手紙が一通はいっていた。