雨が降ったら


『――最後になりましたが、俺は遠い場所から、ささやかながらもあなたの新しい生活の前途を祈っています。

 もし、これから先、あなたの進む道に冷たい雨が降るようなことがあれば、この傘を差して、顔を上げてください』


 どうか、お元気で。


 ―――森田岳


 便せんを封筒に戻すと、渡されたビニール傘を広げる。

 やわらかな陽射しがビニールをすり抜けて降り注ぐ。

 涙を拭って、顔を上げてみる。

 すると不思議と、すこしだけ胸の痛みがやわらいだ気がした。


 第二ボタンを胸に抱き、わたしも願う。

 彼が、見知らぬ土地でも笑っていられますように。

 顔を上げて、前を向いて、歩いていけますように。


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