雨が降ったら

 春空の下、わたしは彼からもらった傘を差したまま、残りの帰路を行く。

 涙はすっかり乾いていたけれど、まだ閉じたくなかった。


 ――森田さん。

 わたしはいまも、あなたに宛てて書いた返事を大切に持っています。

 もちろん、あなたからもらった手紙も。


 この晴れ渡る空の下、あなたは流れゆく雲を同じように見上げているのでしょうか。

 そよぐ風に乗せて、この想い、あなたに届きますか。

 そっと目を閉じて、思い浮かべる。


 バスの彼。森田岳さん。


 わたしは、きっと、あなたに恋をしていました。


 顔を上げる。
 自然と笑みがこぼれた。


 END


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