雨が降ったら

 次、雨が降ったら、返事ください。


 ……明日、雨は降るだろうか。

 町には暗い影が落ちている。窓の外、降りしきる雨足は強く、止む気配がない。

 もし、明日またバスに乗らなくてはならないとしたら。


「返事」


 はっとして起き上がり、転がるようにソファを降りる。
 勢いあまってサイドボードの角に小指をぶつけた。

 左足を引きずるように椅子に座って、机の電気を点ける。
 できるだけ無地に近い便せんを選んで、ページをめくる。


 森田さん。

 ……森田、岳さん、へ。
 

 一字一字、時間をかけて書き落とす。


 名前も、学年も、声も、正面からの顔も知らなかったバスの中の短髪頭。

 なにも知らなかった、森田岳という名前の人。

 手紙を受け取った今日の今日まで、わたしの中、彼は、ただのバス利用者の一人という認識しかなかった。

 それが今日、世界がぐるりと回ったように、おおきく変わった。


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