雨が降ったら
慌てて彼をさがすけれど、いつものシートに座っているのは彼ではなく、
後頭部が寂しくなりつつある中年男だった。
他のシートにも目を向ける。
勢いよく顔を振りすぎて、その拍子に口に髪が入った。
直すのも後回しにして、夢中で彼をさがす。
しかし、見知った顔がちらほら確認された中に、森田岳その人は混ざってはいなかった。
おもわずその場にへたり込みそうになった。
(そんな……)
たまたま体調を崩したのだ、バスに乗り遅れたのだ、
そう悠長に考えることの出来ない直感的な衝撃がわたしを襲い、
目の前が真っ暗になる。
もう二度と彼がこのバスに乗り込むことはないと、わたしの中で声が聞こえた。
声は木霊(こだま)となっていつまでも頭の中を響き渡っていた。