Sea
「そんなことで死にはしないよ。ちょっと急ぎの用事があるのよ」

だからって、いくらなんでもこの仕打ちはあんまりだと思うのは俺だけだろうか。

じっと睨んでやるが、そんなことは気にもしていないのか話を続ける。

「あんた、おじさんの事覚えてる?ほら、駄菓子屋やってる昭仁おじさん」

昭仁おじさん?ずいぶん懐かしい名前が出てきたな。

「確か、あのど田舎で駄菓子屋やってる人だよな?かなり昔に行ったことがあるような、ないような」

十年くらい前になるんだろうか。

嫌がるのを無理矢理連れて行かれた記憶がある。

「そうそう。そのおじさんがちょっと病気で寝込んじゃったみたいなのよ。そんな深刻なもんでもないんだけどね」

「あの人、殺しても死なないくらい元気そうだったけどな」

うっすらとしか思い出せないが、いつでも豪快に笑っているイメージがあった。
「やっぱり歳には勝てないってことかしら」

あれから十年、もう五十近い歳になっているのだろうか。

人間変わるもんなんだな。

「で、おじさんのことはわかったけどそれと俺に何の関係があるんだよ?」

「あ、それでね。店に立つことができなくて困ってるみたいなのよ」


何か、嫌な予感がする。

いや、たぶん頭ではわかっているんだけどわかりたくないというか。

「で、一ヶ月くらい店番頼まれてくれない?これから夏休みに入るし、稼ぎ時でしょう。休むわけにはいかないみたいだから」

どうせ暇なんでしょ?

母親の目がそう言っていた。

嫌だ、絶対に。

何が悲しくてあんな何もないど田舎に行かなくてはならないのか。
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